また会う日まで

 船は行ってしまった。地上で見ていた者には、まるで船がすうっと消えてしまったように見えた。 「あっけないわねぇ・・・。」  そう呟いたシシィが涙を拭った。 「きっとまた会えるわ。」  そう言ったのは、ケイリア。彼女はエベロンのエルフだ。シシィ達ドラウの娘達は、彼女とはあまり折り合いがよくない。もちろん表だって喧嘩するようなことは今までなかったのだが・・・。 「そうね・・・。」  ケイリアの言葉に、素直にそう答えられたことに、シシィは自分で驚いていた。このエルフはランフィアのように、自分の力で道を切り開いてきたのだ。ドラウだエルフだという種族の括りが一体何の意味を持つ?大事なのは彼女が仲間であること、それはいつもカーナ達が言っていた言葉だった。 「いつかカーナ達が戻ってきたとき、何もすることがないくらいこの地が平和になっているように、私達ががんばらなきゃね。」 「そうよね。めそめそしていたら怒られちゃうわ。」  エルディーンが肩をすくめて、シシィの肩を叩いた。 「お前達、帰る家はまだあるのか?」  長老が尋ねた。 「ええ、宿屋のマスターがそのまま使ってくれていいって」 「なるほど。では一つお前達に言っておこう。今のお前達にはカーナやリゼルのような後ろ盾は何もない。だが、私はカーナ達に約束した。お前達には目をかけておこうと。とは言っても、それはあくまでも、お前達にそれだけの価値があるならばの話だ。それはわかるな?」 …

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別れの時

 最後になんて言おうか、それをずっと考えていた。  ありがとう  さようなら  げんきでね  どれも言えそうで、そしてどれも言えそうにない、結局決まらないままに朝を迎えた。  今日はカーナ達がトーリルへと戻る日。他にもトーリルに渡る冒険者は多く、プレーン間移動用の船がハーバーに到着したところだ。 「みんな着替えた?こっちのものはなんにも持っていけないから、気をつけてね。」  カーナが心配そうに仲間に言う。トーリルへと帰るのは、ミン、カーナ、リゼル、ラフィーネ、シャンティア、ノイラ。そしてエベロンのエルフ、ランフィアと、ドラウのイルマディア。  冒険者達が自分の家に帰る、ただそれだけのことなのに、なんとドラウの長老が来ている。言うまでもなく、長老の心配はイルマディアだ。 「イルマディアのことはよろしく頼むぞ。」 「長老、何だか娘を嫁に出す父親みたいよ。」  カーナが笑った。 「そうそう、長老はね、イルマディアのことがすごく心配なの。」  シシィとオディールは他人事のように笑っている。 「まったくお前達は心配ではないのか!?イルマディアが遠いところに行ってしまうと言うのに!」 「あら、行かせたくないなら行かせないって、長老が自分で言わなきゃ。」 「そんなことはない!」 「大丈夫よ。イルマディアもずいぶんと力をつけてきたわ。向こうでもしっかりやっていけるわよ。」  そう言ったのは、バードと…

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最後の選択

「こんにちは、長老」  久しぶりにドラウの長老、ニックス・デュランディミオンの元に現れたのはカーナだった。 「お前か、ずいぶんと久しぶりだ。最近はエラドリンの一族の手助けをしていると聞いたが?」 「そうね。シュラウドはかなり厳しい場所だけど、長老に鍛えられたおかげで何とかやって行けてるわ。」 「ふん、世辞もうまくなったようだな。お前の力は、お前が努力して身につけたものに他ならない。そんなことで私に感謝する必要などないわ。」  そういうわりに、長老の口元は緩んでいる。 「お世辞なんかじゃないって。長老には本当に感謝しているの。たった1人でこの街に来たときから、何かと気にかけてくれたもんね。」 「見込みがあると思えば気にはかけるし、ないと思えば切り捨てる。それが私の仕事だ。だが、今日はそんな話をしに来たのではあるまい?」

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